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マネジメントにおける認知的不協和|部下の不満はこうして生まれる

認知的不協和とは社会心理学の用語です。
マネジメントは人を扱うので、人の心理的な傾向を知っておくことはとても役に立ちます。

今回は、管理職はなぜ評価の伝達で部下に丁寧に説明しなければならないのか?なぜ新しい仕事にうまく適応できない部下をサポートしなければならないのか?といったマネジメントの具体例を交えながら、「認知的不協和理論」について解説します。

目次

認知的不協和理論とは|人は矛盾を抱えたとしても自分の判断を正当化しようとする

認知的不協和

認知的不協和とは、自分の認知(感情や思考・行動)とは矛盾した認知を抱えた状態のことを指す、社会心理学の用語です。

認知的不協和理論とは、不協和が生じている時に感じる不安や不快感を解消するために、自身の認知の定義を変更したり、過小評価したり、自身の考えや行動を変更することで、つじつまを合わせ正当化する心理をいいます。米国の心理学者レオン・フェスティンガーにより提唱されました。

端的にまとめると、人は不協和を抱えると、下記のような心理的な変化が起こるということです。

AとBの間に不協和が存在する場合、一方の認知を変化させることによって不協和な状態を減少させる、または解消させようとする。
そして、認知的不協和の度合いが大きければ、大きいほど、不協和を低減させる力も応じて大きくなります。

具体的な例:喫煙者の不協和

ある喫煙者Aがいたとします。その人の認知は下記のようなものです。
・認知1:私はタバコを吸う

そこに、喫煙者は肺がんになりやすいという新しい認知を得たとします。
・認知2:喫煙者は肺がんになりやすく寿命が短くなる

この場合、下記のように認知を変更すれば、死への恐怖や不安を和らげることができます。
・認知3:私はタバコをやめる

しかし、ことはそう簡単にはいきません。Aはタバコによるニコチン依存となっているため、禁煙には苦痛が伴います。すると、Aは自分にとって都合の良い別の認知(認知4、認知5、認知6)を持ち出し、喫煙による死への恐怖や不安を和らげ、喫煙を正当化してしまうのです。
・認知4:喫煙者でも長寿の人はいる
・認知5:肺がんよりも、前立腺がんや乳がんの方が発生確率は高い
・認知6:ストレスは病気の原因であり、タバコをやめるストレスの方が危険だ

マネジメントにおける認知的不協和|評価面談を軽視する管理職に良いマネジャーはいない

部下が評価に納得できない場合

そもそも、自己評価は他者評価に比べて高くなる傾向「レイク・ウォビゴン効果 (平均以上効果)」があり、自己評価と上司からの評価は不協和(自己評価に比べ上司評価の方が低い)がとても生じやすいです。
マネトレ利用ユーザーにおいても、「目標設定」と「評価」の納得度を比べると、9割の組織で「評価」の方が納得度が低くなります(=目標設定の方が納得度が高くなる)。

評価の伝達において、上司が丁寧なコミュニケーションを取らない場合はどうなるでしょうか?
部下は「上司は全然自分の仕事ぶりを見てくれていない」「Bさんをえこひいきしている」「私が嫌われていて不当な扱いを受けている」「上司は無能だ」といった、新しい認知を持ち出し、自分に対する自己評価を正当化させようとします。

人は、そうすることが心理学的に普通であり、素直に納得できることの方が難しく、また少ないのです。
ですから、評価面談を適当に行ったり、評価面談を実施しないことは、部下の不満だけでなく、上司に対する否定にも繋がるため、百害あって一利なしです。
評価面談を適当にする上司で、良い上司というのは存在しません。もしあなたがそうなら今すぐ見直しましょう。

新しい仕事にうまく適応できない場合

新入社員に限らず、異動や転職等で新しい仕事を任された時、うまくいかないケースは頻繁に発生します。
こうしたケースで、本人の自己認知では一生懸命やっていた場合、うまくいかず適切なサポートが受けられないと下記のような別の認知を持ち出し、自身を正当化しようとしてしまいます。

「上司が業務支援をしてくれないからだ」「先輩が教えてくれないからだ」と誰かの原因であるとしたり、「新しい仕事に慣れるのは大変だからすぐにできなくても仕方ない」と自分を納得させたり、不快感を解消しようとします。

このケースはよく他責とも言われますが、人は誰しもそうした間違った方向に流されやすい生き物です。
マネジャーは、そうした人の特性を理解した上で部下とコミュニケーションを取り、部下が認知的不協和から都合の良い認知をつくり、間違った方向に進んでしまわないよう、適切にサポートする必要があるのです。

認知的不協和が起こっている際のマネジメント

認知的不協和を解消するには、2つの方法があります。

  1. 「新しい認知」を受け入れる
  2. 都合の良い認知に、さらに別の「新しい認知」を追加する

部下自身が自身の認知に不協和を抱えた状態の場合、早期のフォローであれば、本人が新しい認知をもって正当化する前に、部下が抱える矛盾を解消し、「新しい認知」を受け入れられるようにサポートすべきです。
また、本人が不協和を解消するために、既に自分にとって都合の良い別の認知を追加しているような場合は「さらに新しい認知」を追加することで、言動の是正を促します。

どちらの場合も、マネジャーには丁寧なコミュニケーションが求められます。
後者の方が、時間がかかり、新しい認知を受け入れるのは本人にとってストレスが伴います。ある程度時間がかかるものと思って、粘り強くコミュニケーションを取っていきましょう。
少ない時間でも毎週の1on1などで部下と対話することは、こうした不協和の発生に対し、早い段階でタイムリーにフォローすることができるためとても効果的です。
時間がないと対話の時間を削るマネジャーも多いですが、こうした時間の投資は問題の発生を未然に防ぎ、部下の成長にも繋がるため、広い観点で見るとマネジメントの大幅な効率化にも繋がります。
マネジャーが部下との対話の時間を削るという選択は、対処療法であり根本的な解決には繋がらないため、いつまでたっても忙しい状態は解決されないことを認識すべきでしょう。


いかがでしたでしょうか?
認知的不協和理論はなさまざまな分野で利用されていますが、今回はマネジメントに特化して解説しました。
人にはこうした特性があると分かることで、マネジメントする際の心理的な負荷低減や、マネジメント方法の改善に活かせると思います。
今回取り上げた事例で思い当たることがある方は、ぜひ改善に取り組んでみてください。

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