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ジョブ型雇用のポイント解説|よくある勘違いへの回答付き

ジョブ型雇用という言葉を最近よく聞くようになりました。
ジョブ型雇用とは、日本の働き方と欧米の働き方を分かりやすく説明するために日本で作られた言葉で、欧米の働き方を表す際に使われています。
ここ1,2年で、大手企業でジョブ型雇用を導入といったニュースをよく目にするようになりました。
今回は、そもそもジョブ型雇用とは何なのか?そしてよくある勘違いと日本での実態について解説します。

目次

そもそもジョブ型雇用ってなに?

  • 日本の従来の働き方(メンバーシップ型)に対し、欧米の働き方を指す言葉が「ジョブ型」
  • 欧米で「ジョブ型」という言葉はなく、日本の働き方と欧米の働き方を分かりやすく説明するために日本で作られた言葉
  • 最も大きな違いは、人に等級をつけるか(職能給)、ポストに等級をつけるか(職務給)ということ。
  • ジョブ型は職務記述書(ジョブ・ディスクリプション)を詳細に定めることが本質ではない
  • 日本では、内定通知書などに「あなた」のグレード(等級)はG4です、といった具合に記載がある。一方、欧米では「ポスト」に対し、グレードのG4が記載される。

働き方の特徴

ジョブ型
  • 職務給(職務価値の大きさによってポストを格付け)
  • 社外の視点(転職市場での価値)も考慮して給与を決める
  • 市場価値が高い職種ほど報酬が高い。社内の報酬の横並びはない
  • 解雇ルールあり/随時離職
  • 実力主義
  • 通年採用
  • 勝手な異動なし
  • スペシャリスト
  • 職務によって、等級が上がることも下がることもある
メンバーシップ型
  • 職能給(職務遂行能力によって人を格付け)
  • 社内の論理で給与を決める
  • 同じ役職であれば職種による報酬面の違いはなく横並び
  • 終身雇用
  • 年功序列
  • 新卒一括採用
  • 異動は会社の自由
  • ジェネラリスト
  • 等級は上がることがあっても基本下がることはない

ジョブ型雇用の主なポイント

  1. 等級(グレード)を「人」ではなく、「ポスト」につける(職務給)
  2. ポストの数は計画で決まる(等級の人数でポストの数は決まらない)
  3. ポストは定員制である(ポストがなければ能力があっても上がれない)
  4. 企業は社員を自由に異動させられない(人事権がない)

賃金制度:職務給(欧米)と職能給(日本)の比較

ジョブ型(欧米):職務給

① 職務等級(グレード)=ポスト。平社員はG1、リーダーはG2、課長はG3、部長はG4といった形になる。つまり、ポスト= 等級 = 給与という形で連動する。
年齢や勤続年数にかかわらず、責任や難易度が同じ仕事に取り組んでいれば、同一の賃金が支払われる。

② ポストを管理する。経営計画から必要なポストを定め、人員構成を決める。ポストが先にある。
そのため、ポストに必要な人材が不足していれば適宜中途採用で調達し、スキルのない新卒を積極的に採用するようなことはない。
また、ポストがなければ、仮に能力が上がっても昇進できないため、社員はキャリアアップしたい場合は他社のポストに転職をする。

ジョブ型(欧米)_職務給

メンバーシップ型(日本):職能給

① 職能級(グレード)=人。平社員の中にG1とG2、G3、課長の中にG4とG5といった形で、同じ職務・役割で外からは違いが分からなくても異なる等級が混在する。つまり、人 = 等級 = 給与という形で連動する。

② 人を管理する。必要なポストに関係なく新卒を中心に基本「仕事・勤務地を無限定」で採用活動を行う。能力評価における実態は、仕事に取り組んだ経験を評価することが多く、新卒は年齢や勤続年数で等級が上がっていく。
事業成長でポストが必要といった合理性がなくとも、社員の成長にあわせてポストをつくる(増やす)。
そのため、事業成長が横ばいや下降となれば新たなポストは実際は必要ないので、部下なし管理職や、仕事の内容は平社員なのに役職がつく人が発生する。

メンバーシップ型(日本)_職能給

解雇や採用の比較

ジョブ型 (欧米)

① 経営計画から必要なポストを定め、人員構成を決める。ポストが先にあり、ポストは厳格に定員管理され、ポストがなければ採用はできない。
そのため、業績不振による事業の縮小、事業の撤退などでポストがなくなった場合、解雇される可能性があり、ポストで採用しポストがなくなったのだから解雇する、ということは合理的であり認められる
欧州各国では労働者が不利にならないよう、解雇予告期間や解雇の際の金銭解決ルール(金銭的保証)が決められている。

 職務遂行能力が足りない場合、業績改善プログラム(PIP:Performance Improvement Program)を行い、それでも改善が見られない場合は解雇される。
これはポストを管理しているため、ポストに見合う能力がなければ解雇することが合理的とされ認められる。

 ポストがなければ昇進ができない、解雇も頻繁に発生するため、転職が活発である(米国ではひとりの平均転職回数は10回以上)。

メンバーシップ型 (日本)

① 人に等級をつけ、人で人事を管理しており、ポストに連動した採用を行っていないため、ポストが無くなろうと合理的な理由とならずそのような理由で解雇することは認められない。

② ポストのために人を採用していないので、もし与えられた職務遂行の能力が著しく不足していても、チームや働く場所を変えたり、職種を変えたりして、社員の活躍の場を別に求めなければならず、能力不足による解雇は、勤務態度の不良等のよほどの場合を除き合理的とみなされず認められない。

 ポストがなくても能力が上がれば昇進できる。実態として、能力は経験によって上がっていくとみなされるため、勤続年数に伴い昇進する。そのため、欧米のように必要に迫られて転職するといったことが発生しにくい(日本ではひとりの平均転職回数は2回以下)。
また、人に等級がつくため、出世コースから外れて簡単な職務になったり、自分が経験のない職務に手を挙げて異動し平社員レベルの仕事しかできなかったとしても、給与は下がらない。
これは、異動したとしても人に紐づく能力はなくならないためで、等級を下げる=給与を下げる合理的理由にならない。こうした背景もあり、転職は欧米に比べ極めて少ない。

異動や人事権の比較

ジョブ型 (欧米)

① 会社と社員は、合意して契約した限定されたポスト(職務)で繋がっており、会社と社員が繋がっているわけではない。したがって、ジョブ型では、会社に人事権はなく、その人のポストを会社の都合で勝手に変更する、異動を命じることは認められない。
会社都合で配置転換が出来ないため、勤務地の変更はもちろんのこと、職種・職務の変更もできない。マーケティングの人を広報に、営業を営業企画に、採用担当を人事制度設計に、経理を財務に、といった職種転換、職務内容の変更でも本人同意が必要。
そのため、空きポジションについては社内で公開されており、社員自らが希望する形を取ることが一般的。

② ジョブ型での会社と社員のポストでの契約は、社員は自身のやりたい仕事(合意した仕事)ができ、会社都合で異動させられることがない反面、仮に仕事で高い成果を出していたとしても、会社や事業の状況でポスト自体が無くなれば会社都合で契約を終了すること(解雇)が合理的と判断される。

 労働者は職務を自分の意志で選び会社と合意することができるため、自身が伸ばしたい専門性を磨くことができる。

メンバーシップ型 (日本)

① 採用の際に職務や勤務地を限定しない無限定での契約のため、メンバーシップ型では会社と社員が繋がっている。
もともと職務や勤務地を限定していない契約であるので、会社の都合で社員の仕事内容や勤務地を自由に変更することは合理的として認められており、人事異動・勤務地変更をすることが可能で、社員は拒否することはできない。
過去の判例でも、無限定で採用した社員が異動を拒否したケースでの解雇が認められている。

② 無限定で雇用契約を結んでいるため、人員の不足を企業の意思で異動によって柔軟に補うことが可能な反面、「今やっている仕事がなくなった」「今やっている仕事ができない」といったことで解雇は認められず、他の機会を与える必要がある。

 ジョブ型の社員が希望する仕事(合意した仕事)での契約と異なり、無限定で企業が自由に人員配置ができるがゆえに、社員のキャリアの希望やキャリア形成に対して企業は責任を持たねばならず、社員が企業内で望むキャリアが形成できるようサポートする必要がある。

よくある勘違い①:厳密な職務記述書(ジョブ・ディスクリプション)作成こそ重要

実態として欧米では職務記述書(ジョブ・ディスクリプション)は厳密に規定されていない

事前に勤務地、報酬、職務の内容などの労働条件を細かく定め、その内容を職務記述書(ジョブ・ディスクリプション)にまとめ、企業が労働者と合意して雇用契約を締結する、というのが一般的なジョブ・ディスクリプションのイメージです。
しかし、実際の欧米企業のジョブ・ディスクリプションは、細かく厳密に職務を規定しているわけではなく、幅広い業務に対応出来るよう、抽象度が高く書かれています。仕事を行う中で柔軟に対応できるよう、職務の大枠と責任範囲を規定したものが一般的です。

詳細な職務記述書があることよりも、むしろ前述した職務給、職能給の違いから生じるさまざまな違いが、ジョブ型雇用とメンバーシップ型雇用の大きな違いであり、制度におけるメリットを生み出しているといえますが、日本での実態としては、ジョブ・ディスクリプションは作成するものの、ポストや職責が「人」に属する「職能給」のまま運用されているケースが現状多いです。

職務記述書(ジョブ・ディスクリプション)は重要でない、という新しい考え方もある

2018年に日本語版が刊行された『ティール組織 ― マネジメントの常識を覆す次世代型組織の出現』。
米コンサルティング会社のマッキンゼーで10年以上組織変革プロジェクトに携わり、その後独立したフレデリック・ラルー氏が書いたこの本は、12ヶ国語以上に翻訳され、世界で35万部、日本では5万部の大ヒットとなりました。

その本の中で、次世代の組織として解説されたティール(進化型)組織では、ジョブディスクリプションや役職はないことが特徴として挙げられています。固定的な名称では組織内で流動的に変化していく職務内容を説明できず、進化型(ティール)組織では、社員たちは役割を頻繁に取り換えたり取引したりすることで、組織に大きな柔軟性と適応性が生まれるとしています。

よくある勘違い②:解雇が容易になる

ジョブ型にしたら急に解雇が認められるわけではない

・転勤や異動といった人事権を企業が持つ運用を続けている場合は、仮にジョブ型の制度を導入していたとしても、実質無限定での雇用であるとして、解雇が認められない可能性が高い。

・労働協約等で解雇のルールを定めていない場合、同じような状況である人は解雇され、ある人は解雇されないという場合には、差別とみなされ無効となる可能性が高い。
現状でも例えば業績不振による整理解雇等の際に、企業が客観的かつ合理的な理由無しに自由に残す社員と解雇する社員を決めることは認められておらず(Aさんの方が優秀だからといった曖昧な理由では認められない)、希望退職等の差別の余地がない方法を行っている実態がある。

・解雇をする会社だとみなされれば、日本においては採用競争力でマイナスの影響が出る可能性が高い。雇用が不安定であれば、欧米企業並みに給与水準を引き上げるといった別の対応もなければ優秀な人材の獲得競争で負けてしまう。


いかがでしたでしょうか?欧米と日本での雇用に関する違いがよくお分かりいただけたかと思います。
ここまでジョブ型について解説してきましたが、グローバルで統一の人事制度を作るといった目的がなければ、日本企業が焦って導入をする必要があるかは疑問です。
採用から人材育成、給与に至るまで抜本的な変更が必要で、そのマイナス面も無視できません。完璧な制度というものはなく、メリット・デメリットがあります。

現在、日本でジョブ型雇用を導入したとPRしている企業の実態は、欧米のジョブ型とは大きく異なり、人事権や職能給はそのままで、ジョブ・ディスクリプションを作成する、新卒で職種別採用枠を設ける、ジョブの明確化により名ばかり管理職を廃止する、等級と職務が一致していない中高年層のグレードを下方に調整する、といったものです。
メンバーシップ型の放置されてきた悪い部分(組織の活力を損ねる部分)にジョブ型の要素を一部取り入れてジョブ型だと言っているものがほとんどであり、実態はジョブ型ではなく「職能給」と「人事権」というジョブ型にはないメンバーシップ型の核となる要素は残したままです。
つまり、メンバーシップ型の修正です。

昨今はジョブ型という言葉やニュースであふれているため、検討を迫られる人事の方も多いかもしれませんが、過度にジョブ型に寄せて制度設計する必要はありませんし、実際そのような日本企業はごく少数しかないという点を認識していただければと思います。
ジョブ型の機運を、欧米のジョブ型を正解として急速に移行させるのではなく、現状のメンバーシップ型の人事制度の悪い点を改善していくきっかけとすることが最善と思います。

先に述べたとおり、メンバーシップ型の悪い点は、長年の制度運用で既に明らかになっています。日本企業が世界でプレゼンスを落とした要因のひとつであることは紛れもない事実でしょう。
ジョブ型の良い部分を取り入れつつ、新しい人事制度を検討していく時期に、日本企業がきているのは間違いありません。

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