マネジャーの基本的役割として、「情報関係」「業務遂行関係」「対人関係」「コンプライアンス関係」の4つがあります。
日本経済団体連合会の報告書によると、それぞれの役割は以下を指します。
- 情報関係:経営の目標や方針を組織に浸透、現場の必要な情報を経営に伝達など
- 業務遂行関係:組織の課題解決、業務効率化の推進など
- 対人関係:部下の指導・育成、仕事に対する動機づけ、部下同士の協働促進など
- コンプライアンス関係:法令遵守や、社会規範、企業倫理などへの組織的対応
今回は、1つ目の役割である情報関係の中から、マネジャーが役割や目標を明示することの重要性についてまとめます。
マネジャーに求められる情報伝達機能
まず、情報伝達機能を大きく分けると、以下2つがあります。
- 経営の目標や方針を組織に浸透(上から下)
- 現場の必要な情報を経営に伝達(下から上)
会社が大きくなり組織の階層が増えれば増えるほど、経営と現場社員との距離感が遠くなり、声が届きにくくなります。
経営は、全社の戦略や方針を掲げ発信しますが、経営が設定するのはどうしても抽象度の高い大方針になります。
それを自身の組織に当てはめ、咀嚼し、メンバーの役割や目標に落とし込むのがマネジャーの役割(上から下の情報伝達)です。
また、経営からは実際の現場が遠く、現場で起きていることを肌感覚として感じるのは難しいです。
そのため、マネジャーには、顧客やマーケットの状況、組織の状況など、経営の意思決定に関わるような現場の情報をきちんとフィードバックしていく役割(下から上の情報伝達)があります。
どちらも経営と現場を結びつけるマネジャーの重要な役割ですが、下から上の情報伝達は、昨今のDX(デジタルトランスフォーメーション)推進もあり、タイムリーな情報共有がシステム的に補完されるようになってきました。
一方、上から下の情報伝達は、抽象的な目標や方針を、組織に合わせてメンバーに響く言葉に翻訳して伝え、浸透させることを求められています。システムで置き換えが難しいこともあり、相対的に重要性が増しています。
役割や目標を明示することの重要性
経営戦略や事業戦略といった抽象度が高い方針をそのまま伝えたときに、自身の業務と結びつけて行動を変化させることができるメンバーは多くありません。
そのため、マネジャーが適切に噛み砕き、役割や目標という形でメンバーにわかりやすく伝えていく必要があります。
役割や目標は、組織のあらゆる活動の基となり、行動する際の判断軸になります。
例えば、メンバーの目標設定。
組織の役割や目標が曖昧な状態でメンバーに目標設定を依頼してしまうと、それぞれの価値観や考えに従って自由な目標設定がなされてしまいます。
面談を通して調整することもできますが、役割や目標を明示してから依頼する場合と比べて倍の時間を要します。
チェックして調整しない場合はさらに悲惨です。メンバーが設定した目標を達成したとしても、会社の方針や目標に達せず、評価されないというギャップが生じます。
目標設定は形骸化し、評価への納得感を低下させ、モチベーションを著しく下げてしまうでしょう。
(参考)目標設定とは?|部下のやる気を引き出す目標設定のやり方
また、権限を委譲して仕事を任せるためにも、役割や目標の明示は必要です。
納得された役割や目標は、メンバーに責任感を持たせます。また、仕事を進める上での判断軸にもなります。
役割を果たすため、目標を達成するために何ができるか、自分なりに工夫し、自分で判断して進めるための土台になるのです。
逆に、役割や目標を明示せず、ただ業務をアサインしている場合、なぜ必要なのか、何の役に立っているのかをメンバーは理解できません。モチベーションを感じづらく、ただ与えられた仕事をこなす状態になりやすいです。
(参考)部下のやる気を引き出す権限委譲の方法|リモートワーク時代に必須のマネジメントスキル
このように、メンバーに役割や目標を明示することは、マネジメントのあらゆる場面に影響を与えます。
組織をリードして高い成果を出すために、組織の役割や目標を明示することは欠かせません。
自分の言葉で役割や目標を語る
「経営が〜〜と言っていた」「会社の方針は〜〜です」とそのまま伝えることに意味はありません。それは経営から、メールなり社員総会なりで伝えれば済む話です。
マネジャーに求められるのは、自組織に当てはめて、メンバーにわかりやすく伝え、行動変化につなげること。
そのために、以下のように自分に問いかけ、マネジャー自身が理解・納得することが必要です。
経営の目標や方針を自組織に当てはめると、どんな役割が期待されるのか。
自組織の役割を理解してもらうために、どんな伝え方をするとメンバーの心に響くか。
方針に沿って業績責任も果たすためには、どんな目標設定、ルール設定が必要か。
マネジャー自身が納得していない、リアリティのない言葉では人の心は動きません。
自身がしっかりと咀嚼して納得した上で、自分の言葉で役割や目標を語れるようにしましょう。