「影響力」とは
影響力とは、他に働きかけ、考えや動きを変えさせるような力のことです。
マネジメントでは、部下はもちろん、上司や他部署、取引先、顧客など、さまざまな相手と関わります。
そのためマネトレでは、「必要な資源・協力を確保し、チームを成功に導く力」をマネジャーの影響力と定義しています。
チームを成功に導く過程では、ヒト・モノ・カネ・情報・時間などの資源が不足し、壁にぶつかることが多々あります。
こうした場面で、メンバーや上司、関係部署の協力を取り付ける、利害を調整する、人員や予算を確保するといった活動は、マネジャーとしての信頼を高めたり、チームを成功に導く上で必要不可欠な能力です。
「影響力」の低下が招く、マネジメントへの悪影響
影響力は、「マネジャーとしての信頼」に影響します。
メンバーとの信頼関係には、「人としての信頼」「マネジャーとしての信頼」の2段階があります。
・ 同僚としてなら良い(人間関係は良い)が、上司としては頼りない
・ メンバーの意見は聴いてくれるが、何も改善されない
・ 「誠実さ」のスコアは高いが、「影響力」のスコアが低い
これらは人としては信頼されているものの、影響力が低くマネジャーとしての信頼が十分に構築できていない状態です。
「マネジャーとしての信頼」は、マネジメントの土台です。
メンバーから信頼が得られないと、マネジメントのさまざまな場面でマイナスの影響が出てきます。
- マネジャーとしての信頼が得られず、マネジメントが機能しなくなる
- 上司とメンバーの板挟みで、マネジャー自身の負担が増えてしまう
- 他組織への依頼や要望が通らないことで、組織の生産性が高まらない
- 恒常的な業務過多が改善されない
- 「意見を出してもどうせ変わらない」と感じさせ、意見が出づらくなる
- マネジャーに期待しなくなり、相談や新しい提案が減る
- マネジャーに対して批判的・反発的な態度が増える
- 不平不満や愚痴が増える など
「影響力」を低下させる要因として考えられること
影響力がないと感じさせる行動をとってしまっていることもあれば、自分ではしっかりやってるつもりなのに、サーベイで低いスコアとなりショックを受けることもあります。
上司と部下の認知ギャップで多いのは、上司が何らかの行動を起こしていることがメンバーに伝わっていない(見えていない)というケースです。
メンバーへのサーベイで「影響力」や「信頼」が低いスコアとなった場合、以下チェックポイントが満たせているか、自身の行動を振り返ってみてください。
- チームで顕在化した問題を放置していないか
- メンバーの意見を適切に上申しているか(マネジャーで止めていないか)
- 自分だけで改善が難しい問題の場合、上司や関係者に相談し協力を求めているか
- 聞くべきではないと判断した意見について、メンバーが納得できる説明をしているか
- チームの役割や目標を明示し、そのためにチームとして解決すべき課題を説明しているか
- 仕事を割り振るだけでなく、意義や重要性などを伝えて仕事に動機づけしているか
- 上司という役割責任を権威と勘違いし、高圧的な態度で指示や指摘をしていないか
- 問題やメンバーからの意見に対して、自身の対応方針を伝えているか
- 上司に相談中など、きちんと改善に動いていることをメンバーに伝えているか
「影響力」の高め方
「影響力」は一朝一夕には高まらず、ある程度時間がかかります。
必要な資源・協力を確保しチームを成功に導くというマネジャーの役割を遂行していくことで、マネジャーとしての影響力や信頼は徐々に高まっていきます。
問題を放置せず、適切に判断して対処する
マネジメントをしていると、大小さまざまな問題が発生します。
その際どのように対処していくのか、判断軸や分類方法をある程度決めておくと対処しやすくなります。
①その問題は、対処すべき課題か?
問題が発生したり、メンバーから不平不満や改善の要望が出た際は、まずそれらは「対処すべき課題か」を考えましょう。
対処すべきものが多いと思いますが、中には顧客に影響が出てしまうもの、メンバーの個別最適の意見で全体最適にならないものなど、「対処すべきでない問題」「聞くべきではない意見」もあります。
頭ごなしに否定するのは良くないため、なぜそう考えるのか、目的は?、メリットとデメリットは?など、メンバーの意見の背景や考え方を確認した上で判断するのが適切です。
その上で、コンプライアンスや倫理観、会社のビジョン、部門のミッション、チームの役割や目標、顧客への影響、全体最適、メリットデメリットなど、何に照らして「対応すべきでない」と判断するのか、理由を説明しましょう。
その場で判断できない場合は、「検討する」と持ち帰って問題ありません。後日、検討の結果を忘れず伝えましょう。
②課題を分類して優先順位を決める
課題を分類する軸は複数あります。優先順位を整理するのが目的なので、使いやすい分類で構いません。
また、どれも対処すべき課題なので、厳密である必要はありません。大まかに優先順位を決め、対処していきましょう。
(例1)問題の重要度で分ける
・顧客や会社の信頼に影響する → 最優先で改善する
・無駄や非効率だが業務としては回っている → 対応時期を設定して改善に取り組む
(例2)改善によって得られる効果で分ける
・チーム全体に効果が及ぶ → 優先
・メンバー個人に効果が留まる → 次点
(例3)改善の難易度で分ける
・すぐに改善できる → すぐに改善し実績を作る。タスクとして溜めない
・改善できるが工数が大きい → 優先順位を決め、対応時期を設定する
・自分だけで改善できない → 相談や確認に時間がかかる旨を伝え、後日状況報告
きちんと改善に動いていることを伝える
意外と多いのが、マネジャーは改善に取り組んでいるのに、それがメンバーに見えていない(伝わっていない)というケースです。
上司に相談する、関係部署と調整する、取引先と話し合いの場を持つなどマネジャーが活動している時、メンバーは自分の業務に向き合っているため、見えていないことが多いです。
テレワークや会議が多いなどメンバーの近くで仕事をする時間が少ない場合は、マネジャーが何をしているか、ほとんどメンバーには伝わっていないと考えた方が良いでしょう。
マネジャーの活動はメンバーから見えづらく、ともすればマネジャーは仕事をしていない、問題を放置しているとみられがちです。
・改善に取り組んでいるという事実
・途中経過(誰に相談し、誰がボールを持った状態か)
・改善の目処(いつ頃までに/時間がかかる理由)
・改善できなかった理由(上の判断理由)
・改善すべきでないと判断した理由(どんな判断軸で決めたのか)
など、きちんとマネジャーの責務として動いていることをメンバーに伝えるようにしてみてください。
チームの目標や方針を明示し、チームとして解決すべき課題をメンバーと共有する
チームを成功に導くには、そもそもチームの成功とはどんな状態かを明確にしなければなりません。
チームの役割や目標を定め、それを達成するためにどんな戦略や方針で進めていくのか示すのもマネジャーの役割です。
メンバーとマネジャーでは、視座の違いや経営情報に触れる機会に差があり、メンバーは同じ情報を得たとしてもマネジャーと同じレベルで考え、情報を解釈することができません。
チームの役割や目標がなかったり、メンバーに理解されていない場合、マネジャーはチームの成功のために動いているつもりでも、メンバーはなぜそうするのか理解できないといったすれ違いが発生します。
共通の目標がないため、変えたくない、これまで通りの方が楽だ、などと個人の価値観をもとにした反対意見が増える悪影響も出てきます。
チームの目標や方針を明示し、チームとして解決すべき課題を共有することで、マネジャーの取り組みや依頼事項の意図が、メンバーに理解される状態を作りましょう。
上司や他部署のマネジャーと良好な関係を築く
マネジャーが直面する問題の中には、自身に権限がない、影響が他組織にも及ぶなど、自分だけで解決が難しい問題が多々あります。
こうした問題は、上司や他部署に掛け合うことで、承認を得る、協力を得る、利害を調整するといった活動をしていくことになります。
日頃からコミュニケーションをとり良好な関係を築いておくと、いざ問題に直面した際に、協力を得やすくなります。
任せる仕事に対して動機づけする努力を欠かさない
マネジャーは、メンバーに対して業務の指示を出したり、その成果を評価したりと、その役職に一定のパワーがあります。
そのため、「これやって」とただ指示を出すだけでも、メンバーがその指示に従ってくれる場合も多いです。
ただ、このような仕事の任せ方では、メンバーは仕事に動機づけされることもなければ、自ら協力したいと思うこともないでしょう。
「必要な資源・協力を確保し、チームを成功に導く」には、チームメンバーの協力を得ることも当然必要です。
メンバーの心持ちも影響するため、任せる仕事に対して100%動機づけできることはないと思います。
しかし、仕事の目的や意義、重要性、なぜあなたに任せたいのか、その仕事にどんな魅力があるのかなどを伝え、メンバーを動機づけする努力を欠かしてはいけません。
こうした説明を怠らず、働きかけを続けていくことで、影響力やマネジャーに対する信頼が高まっていきます。