どうして人や組織は変わってくれないのか?、なぜ自分はより良い上司に変われないのか?
誰しも一度は思ったことがあるのではないでしょうか。
今回は、米ハーバード大学教授で発達心理学と教育学の権威である、ロバート・キーガンとリサ・ラスコウ・レイヒーによって書かれた『なぜ人と組織は変われないのか?』を参考に、人と組織が変われないメカニズムと、それを乗り越え変化する方法について解説します。
人や組織が変われないのは、やる気の問題ではない
人は「やりたい」ことと、実際に「できる」ことに、大きな溝があります。
コーチング研修を受けたけれど、1ヶ月後には元のマネジメントスタイルに戻ってしまった。
1on1ミーティングで部下がやる気を見せていたが、はたから見ると以前と変わらない。
こうした場面は日常よく目にします。
すると、私たちはどうしても自分を責めたり、個人や組織を責めたりしてしまいがちです。
変革がうまくいかないのは、本人がそれを本気で目指していないからではない。
※引用:『なぜ人と組織は変われないのか?』ロバート・キーガン,リサ・ラスコウ・レイヒー著
心臓を病んでいる人が禁煙の目標を貫けないとしても、その人は「生きたい」と本気で思っていないわけではないだろう。
変革を実現できないのは、二つの相反する目標の両方を本気で達成したいからなのだ。
人間は、矛盾が服を着て歩いているようなもの。そこに、問題の本当の原因がある。
人は矛盾を抱えた生き物であり、「変わりたい」という目標の裏に、自分でも認識できていない「変わりたくない」という固定観念が存在しています。
その結果、明らかに良い変化であっても、変化すること自体が非常に難しくなってしまうのです。
変わりたいのに変われない心理的なメカニズムを、「変革をはばむ免疫機能」と呼びます。
変革を阻むメカニズムとその乗り越え方
例えば、あなたは管理職で、チームとして高い成果を上げたいと考えています。
そのために、メンバーのやる気を引き出せるマネジメントスタイルに変えたいと目標を立てました。
本気で変えたいと思っているものの、マネジメントスタイルは変わらず、チームの成績もパッとしません。
その時、下記のような状態が発生しています。
無意識の本音である「裏の目標」と、裏の目標を生み出している「強力な固定観念」が存在しています。
本気で変わりたいと思っているのだけれど、「裏の目標」も同時に叶えたいわけです。
このケースでいえば、自分は部下より優れていると考える固定観念があると、自分が考える最善の方法(もっと良い方法)でやらせたいと思い、指摘せずにはいられなくなります。
私たちは目標を立てる時、実現するための「よい行動」を考え、「悪い行動」をやめよう、と決心します。
しかし、立てた改善目標とは矛盾した価値観である「裏の目標」「協力な固定観念」を明らかにしないかぎり、問題を解決することはできません。
変革のためのステップ|自分の隠れた固定観念を明らかにする
目標を実現するために、先に挙げた図(免疫MAP)を埋めていく作業を行いましょう。
- 「改善目標」を決める
- 「阻害行動」を徹底的に洗い出す
- 「裏の目標」をあぶりだす
- 「強力な固定観念」を掘り起こす
ステップ1.改善目標を決める
改善したい目標を決めましょう。
抽象的な目標は、「それはどういう状態であれば実現されたと言えるのか」を考え、可能なかぎり具体化しましょう。
ステップ2.阻害行動を洗い出す
どのような行動を取っているせいで、あるいはどのような行動を取っていないせいで、「改善目標」の達成が妨げられているのかを明らかにしましょう。
好材料の洗い出しはせず、意図せずして目標達成を妨げている行動はなにかという点のみ洗い出します。
リストアップする阻害行動は、具体的であればあるほど好ましいです。
例えば、「部下が違う意見を言うとイライラしてしまう」と書くとします。
しかし、これは阻害行動として理想的とは言えません。
心理状態を表現していて、行動を表現していないからです。
苛立ちのせいで、どのような行動を取ってしまうのか?あるいは、どのような行動が取れなくなるのか?まで深掘りする必要があります。
記した内容は誰に読ませるわけでもありませんので、徹底的に自己点検をしましょう。
この段階では、どうしてそのような行動を取るのかや、解決策を考える必要はありません。
自分の取っている阻害行動を明らかにすることに専念してください。
ステップ3.裏の目標をあぶりだす
裏の目標は、自己防衛との関わりが明確でなくてはなりません。
特定の不安と強く結びついている必要があります。
例えば、「部下より有利な立場にいたい」という裏の目標を書き込んだとしても、自己防衛との関わりが明確ではなく不十分です。
どういう不安から自分を守りたいのかが見えないからです。
「部下より有利な立場にいたい。家庭では立場は弱いし、仕事以外の自己肯定感は低い。せめて仕事では自分の価値を誇示したい、思い通りに進めたい。」というところまで掘り下げます。
また、裏の目標には、ステップ2で挙げた阻害行動のうちのいずれか(もしくは全部)が、必要とされなくてはなりません。
「Xという目標をいだいているのであれば、Yという行動を取るだろう」という合理的な関係が成り立つ必要があります。
リストアップしていくと、裏の目標を達成するうえで阻害行動がきわめて重要な役割を果たしていることが理解できるはずです。
表と裏の2つの目標(相反する価値観)の間で、自分がジレンマに陥っていることを実感できると思います。
ステップ4.強力な固定観念を掘り起こす
ゴールに到達できないのは、そこに向けて真剣に進もうとしても、それと同じくらい強い力で押し戻されるからだ。その点を認識する必要がある。
※引用:『なぜ人と組織は変われないのか?』ロバート・キーガン,リサ・ラスコウ・レイヒー著
矛盾して聞こえるかもしれないが、変革への道は、変革を妨げているのが自分自身の内面のシステムなのだと十分に理解してはじめて開けてくる。
裏の目標が明らかにしたら、その背景にある固定観念をリストアップしましょう。
また、固定観念の一つひとつについて、いつ、その固定観念が生まれたのか?
どういう変遷をたどってきたのか?を考えます。
目標を達成するための方法|変革を乗り越える
(1)阻害行動を改める
表に現れない裏の目標や強力な固定観念をしっかりと認識した上で、文字通り表に現れている「阻害行動」をやめてみます。
阻害行動をやめても大した問題は起こらなかったり、よりポジティブな方向に進んだりと、固定観念が単なる自分の思い込みであったと気づくことに繋がります。
(2)裏の目標に反する行動を取る
強力な固定観念からすると、「取るべきでない」とされる行動をあえて実行し、どういう結果を招くかを確認します。
その結果に照らして、自らが持っているその固定観念が本当に正しいかどうかを検証します。
(3)固定観念に直接切り込む
固定観念の本質をなす「もし〜なら、〜である」という論理の妥当性を検証するために、どういう実験やデータが必要かを考え、それを実行します。
また、その固定観念をくつがえす材料がないかどうかを探すことも良いでしょう。
改善目標が達成できないのは「強力な固定観念」や、それに起因する「裏の目標」といった、自分の中に潜んでいる改善目標とは別の価値観によるものです。
やる気や意思にアプローチしてもうまくいきません。
人は、別の価値観(協力な固定観念)にとって理想的な「阻害行動」を無意識に実行してしまいます。
これは、個人だけでなく、組織においても同様です。
今回ご紹介した方法は、自分自身が気づいていなかった固定観念の発見や、変化をもたらすきっかけになるはずです。