有効求人倍率は、経済指標の1つで、厚生労働省が毎月公表しています。
本記事では、人事担当者や転職希望者に向けて、有効求人倍率の読み解き方と転職市場への影響を解説します。
求人倍率は「求職者1人あたり何件の求人があるか」を示す
求人倍率は、以下の式で求められます。
求人数を求職者数で割るため、「求職者1人あたり何件の求人があるか」を示しています。
一般的には、求人倍率が1.0倍を上回る(求人の方が多い)ことを「売り手市場」と言い労働者に有利、1.0倍を下回る(求職者の方が多い)ことを「買い手市場」と言い採用する企業側に有利とされています。
例えば、求人倍率が2.0倍であれば、1人の求職者に2件の求人がある状態。仕事を探す求職者側が複数の求人の中から選べる労働者に有利な「売り手市場」という具合です。
新規求人倍率と有効求人倍率の違い
キャリア採用に関係する求人倍率として、新規求人倍率と有効求人倍率があります。
どちらも厚生労働省が公表する「一般職業紹介状況」という統計という点で共通しています。
主な違いは集計期間。それに伴い、指標自体の意味合いも異なります。
新規求人倍率
公共職業安定所(ハローワーク)で扱った新規求人数を、新規求職者数で割ったもの。 月次集計のため、「新規」とは該当月(1ヶ月間)に新たに受け付けたもののみを意味します。
※新規求人数:該当月の月内に新たに受け付けた求人数 ※新規求職者数:該当月の月内に新たに受け付けた求職者数
新規求人倍率は、企業が新たに求人を開始するという動きを月毎に捉えます。 日本は解雇規制が厳しいため、新規採用に慎重で、増産など見通しがないと求人を出しません。 そのため、新規求人倍率は、景気に先行して動く「先行指数」としての特徴があります。
有効求人倍率
公共職業安定所(ハローワーク)で扱った有効求人数を、有効求職者数で割ったもの。
「有効」とは、該当月に有効期限がかかっているものを意味します。
公共職業安定所(ハローワーク)に申し込まれた求人、求職共に、有効期限は原則として申し込みの 翌々月末までです。例えば、4月中に求人の申込、または求職の申込をした場合、4月1日でも4月30日でも、有効期限は6月30日までとなります。
入社が決まったり、募集を停止したりと、有効でなくなったものは除かれます。
※有効求人数:「前月から繰越された有効求人数」と当月の「新規求人数」の合計 (繰越=前月末日時点で、有効期限が翌月以降にまたがっている未充足の求人数) ※有効求職者数:「前月から繰越された有効求職者数」と当月の「新規求職申込件数」の合計 (繰越=前月末日時点で、有効期限が翌月以降にまたがっている就職未決定の求職者数) ※厳密には、それぞれ期間延長のルールがあります。 ・求人は、応募がうまく集まりもう少しで採用が決まりそうな場合に、1ヶ月間延長可(1回限り)。 ・求職者は、有効期限の終了月にハローワークで職業相談や職業紹介を受けると1ヶ月単位で延長。
有効求人倍率は2~3ヶ月程度の有効期間の状態が加味されており、景気と一致して動く「一致指数」としての特徴があります。
有効求人倍率の推移
一般職業紹介状況(職業安定業務統計)をもとに、有効求人倍率の年平均をとったグラフです。
バブル期、いざなみ景気、アベノミクスの期間を見ると、有効求人倍率が景気と一致して動いており、一致指数としての特徴も確認できます。
景気拡大局面では、採用したい企業が増え、有効求人数が増加します(分子が増加)。また、倒産やリストラなどで失業する方が減り、転職先が決まる求職者が増えるため、ハローワークを利用中の有効求職者数が減少していきます(分母が減少)。結果、有効求人倍率が上昇するというわけです。
逆に、リーマンショックやコロナ感染拡大などの経済危機が起きると、先行きが読めない企業は採用を減らし、有効求人数が減少します(分子が減少)。倒産やリストラによる失業者が増える一方、企業が採用に慎重になるため転職先がなかなか決まらない求職者が増え、有効求職者は増加していきます(分母が増加)。結果、有効求人倍率が下落します。
上記はバブル景気の始まりとされる1986年以降のグラフですが、統計開始の1963年までは遡ることが可能です。 1985年以前が必要な場合は、厚生労働省 一般職業紹介状況(職業安定業務統計)から確認してみてください。
有効求人倍率の限界|読み解く際の注意点
公共職業安定所(ハローワーク)における求人倍率である
上記でも軽く触れましたが、有効求人倍率は、求人、求職者共にハローワークのデータです。 民間の人材紹介(エージェント)や求人広告など、ハローワーク以外の状況は一切加味されていません。
スマホから簡単に求人情報にアクセスできる時代なので、在職中に転職活動を進め、転職先が決まってから退職する方も増えています。積極的に活動はしないが、転職サイトに登録だけしておき、現職より良い企業の話が来れば検討するという潜在的な転職希望者も多いです。
このように働きながら転職活動を行う場合、多くの方が民間の人材紹介や求人広告サービスを活用すると思いますが、これらの状況が含まれないのは理解しておきましょう。
正社員雇用だけでなく、非正規雇用も含まれる
有効求人倍率には、正社員雇用だけではなく、契約社員、嘱託社員、パートタイム、常用型派遣、登録型派遣などの非正規雇用も含まれます。新卒は含まれません。
もしあなたがキャリア採用担当で、正社員採用を前提としているのであれば、厚生労働省のサイト内で「正社員有効求人倍率」も確認することができます。用途に合わせたデータを活用してみてください。
職種により異なる/求めるスキルは考慮されていない
有効求人倍率は、全職業の求人数と求職者数をもとに出されるデータです。
採用したい職種によって、実際の倍率が異なる点も理解しておきましょう。
例えば、2023年12月(パート除く常用)のデータでは、建築・土木・測量技術者が11.87倍と求職者に対して求人数が約12倍あるのに対し、一般事務従事者(事務職)は0.90倍と求職者の方が多く、採用しやすい状況です。
実際のキャリア採用では即戦力人材を採用したいニーズが大半のため、キャリア採用で活用する際には、「職業別一般職業紹介状況」のデータで、職種ごとの状況を確認してみてください。
有効求人倍率の限界として、職種別に有効求人倍率を確認したとしても、求職者の経験やスキル、保有資格などの採用要件に合う方がいるかまでは分かりません。
転職市場の動向を捉えるための指標としては十分活用できますが、その先は実際に募集してみた上で、応募状況に合わせてPDCを回していくしかありません。
キャリア採用への影響は?
ハローワークで求人する場合は要チェック
再三繰り返しますが、有効求人倍率はハローワークのデータです。 キャリア採用にも様々な採用手法がありますが、ハローワークを利用する場合は毎月チェックしておくと良いでしょう。 うまく応募が集まり採用できれば問題ありませんが、職種や求めるスキル要件によっては、全く応募がないこともあります。 キャリア採用担当として、採用したい現場や経営に状況を伝え、採用要件の見直しや採用手法の再検討を提案したい場合に、有効求人倍率などのデータをもとにすると、ロジカルに伝えることができます。 e-Stat(政府統計の総合窓口)にて、各種データを確認できますので、用途に合わせて活用してみてください。
- 正社員有効求人倍率(第10表):正社員に絞った有効求人数、有効求職者数、有効求人倍率を確認
- 都道府県別有効求人倍率(第11表):第11表-12(季節調整値)を確認
- 職業別有効求人倍率(第21表):正社員採用の場合、第21表-14(パート除く常用)を確認
転職市場全体の状況把握に活用
ハローワークを利用していない場合や、ハローワーク以外の採用手法がメインの場合はどうでしょうか。 その場合も、キャリア採用市場全体の状況把握に活用できます。 人材紹介や求人広告など様々な採用手法があり、それぞれ経路毎に求人倍率が出せればベストかもしれませんが、ほとんどの人材会社が非公表としており、工数観点でも現実的ではありません。 ハローワークの採用費は無料というのもあり、民間最大手リクルートエージェントの求人数が36万件強(2024年1月現在 ※1)に対して、有効求人数は245万件強(2024年1月現在)と一桁多いです。 キャリア採用市場全体の状況把握の観点では、有効求人数、有効求職者数の増減で状況把握には十分と思います。 大手人材紹介会社のdodaは、エージェントサービス利用者のデータをまとめたdoda転職倍率レポートを出しています。人材紹介を利用している場合は、人材紹介サービスの転職倍率の参考値として活用するのも良いかもしれません。 ※1 リクルートエージェント(https://www.r-agent.com/)求人情報の公開求人、非公開求人の合計
以上、有効求人倍率について、データの読み解き方や転職市場への影響についてまとめました。
有効求人倍率がハローワークのデータのみであることを正しく理解した上で、ぜひ転職市場全体の状況把握に活用してみてください。